NEWみんなの算数講座90 倍数算(後編)
みなさんこんにちは。区切りの良い節目の90講座にたどり着きました。あと10コ進むと100講座か~。がんばりますね。
今回は前回に続いて倍数算の後編ですが、途中からブリとハマチみたいな出世魚の話になりますよ。出世魚知ってますか?出世魚は成長していく過程の中で名前が変わっていく魚のことです。
ぶりはまち 元はいなだの 出世魚 という有名な川柳がありますね。出世するのは縁起がよいことなので、おめでたい席では出世魚を料理に出すという風習もあるんですよ。
横道にそれました。倍数算が出世した文章題があるんです。最後までがんばって読んでください。
ではまず前回の続きで3パターン目の倍数算。僕の授業では「和あわせパターン」と呼んでいます。読んでいただくとわかると思いますが、文字通り和をあわせます。前回の「さすらいパターン」のようなシャレた名前は思いついていません(笑)
渡辺さんと豊島さんは7:2の割合でお金を持っていました。渡辺さんが豊島さんに、立て替えてもらった600円を返したところ、渡辺さんと豊島さんの所持金の比は3:1になりました。はじめの渡辺さんと豊島さんの所持金をそれぞれ求めてください。
お気づきになった人もいると思いますが、前回と今回の問題のキャラは全部将棋の先生です。自分将棋が大好きでしてね。また横道にそれそうです。解説に戻ります。
今回の倍数算メモは次のようになります。
*この講座は前回89回からつながっています。まだ89回をお読みではない人は、先に89回を読んでくださいね。
[メモ] 渡辺さん 豊島さん
はじめ 7 2
あと 3 1
問題の条件から、渡辺さんが豊島さんに600円払い、「はじめ」の比が「あと」の比に変わったことがわかります。
このように、二人の間でお金がやり取りされた場合、二人の所持金の和(合計)は変化しません。
和あわせパターンはここが最大のポイントです。
二人の所持金の和が変わらないから、上の倍数算メモに「和」という項目を追加し、やり取り前後の比の数の「和」を書き入れます。
[メモ] 渡辺さん 豊島さん 「和」
はじめ 7 2 9
あと 3 1 4
そしてこのメモの「和」の数を9と4の最小公倍数36にそろえ、その倍率に応じて他の数字を等倍するようにします。メモは次のように変わります。
[メモ] 渡辺さん 豊島さん 「和」
はじめ 28 8 36 ➡「和」が4倍だからすべて4倍
あと 27 9 36 ➡「和」が9倍だからすべて9倍
ここで二人の比の数の増減に注目すると、渡辺さんが28-27で1減っていて、豊島さんがその分1(=9ー8)増えています。この1が渡辺さんが豊島さんに返した600円です。比の増減が1なので楽な数値設定ですね。
1=600円
はじめの二人の所持金は、渡辺さんが28、豊島さんが8だから、求める解答は、
渡辺さん 600×28=16800円
豊島さん 600×8=4800円 です。
和をそろえる「和あわせパターン」理解できましたか?もっといい名前を思いついたら教えてくださいね。気に入ったら授業でも採用して、ここも書き直して紹介しますので(笑)
では次に冒頭でも予告した出世魚が関わるお話。じつは倍数算には応用パターンがあり、それには倍数変化算という正式な名前がついています。こんな問題が倍数変化算です。
佐藤さんと広瀬さんは6:5の割合でお金を持っていました。お食事会で、佐藤さんは8000円、広瀬さんは4000円使ったので、佐藤さんと広瀬さんの所持金の比は2:3になりました。はじめの佐藤さんと広瀬さんの所持金をそれぞれ求めてください。
この問題には、いままで3つの倍数算にあったような〈変わらないもの〉がありません。二人ともお金を使ったからどちらかの固定はできないし、使った金額が違うから差も変わります。やり取りではないから「お金の和が変わらない」も使えません。〈変わらないもの〉がないという点が、倍数算が出世した倍数変化算の特長です。
では解説します。メモについては、いままでとタテ、横の項目を逆にし、次のように書くとよいでしょう。タテが人の名まえ、横が時系列ですね。
[メモ] はじめ 出費 あと
佐藤さん 6 -8000円 = 2
広瀬さん 5 -4000円 = 3
「はじめ」と「あと」の比がタテ読みになるので、同じ色で表示しました。
実戦的には色は使えないと思うので、「はじめ」の比を○で囲んだ数字、「あと」の比を□で囲んだ数字にするとよいでしょう。
ここで2つの方針が選べます。
・「はじめ」の比をそろえる
・「あと」の比をそろえる
どちらを選んでも解けますが、「あと」の比をそろえる方法がわかりやすいと思うので、ここでは「あと」の比をそろえます。興味のある方は「はじめ」の比をそろえる方法も考えてみてください。(「はじめ」の比には金額の尻尾がついているのでやや面倒です)
では上のメモの「あと」の比をそろえます。2と3の最小公倍数は6だから、佐藤さんの内容はすべて3倍、広瀬さんの内容はすべて2倍します。
[メモ] はじめ 出費 あと
佐藤さん 18 -24000円 = 6 ➡あとの比が3倍だからすべて3倍
広瀬さん 10 -8000円 = 6 ➡あとの比が2倍だからすべて2倍
なぜこのような作業ができるかというと、「=」で結ばれている式の両辺は等しいから、両辺に同じ数をかけても等しいという関係は崩れないからです。
「あと」の比を同じ6にそろえることで、
「=」の左辺の18-24000円と10-8000円を等しい金額と考えることができます。
18-24000円=10-8000円
前回の講座で考えたように、このタイプの式は、比の数と金額でそれぞれの差を取ればよいから、
18-10=24000円-8000円
8=16000円より、1=16000÷8=2000円です。
求めるものは二人の初めの所持金だから、最初に作ったメモ図に戻って、
佐藤さん 6=2000×6=12000円
広瀬さん 5=2000×5=10000円 です。
注意
1を求めたあとで使うのは最初に作ったメモ図です。修正した2つめのメモ図を使わないようにしてください。
***
2回にわたってお届けした3種類の倍数算と、出世した倍数変化算。理解していただけたでしょうか?内容的にはとても楽しい文章題ですが、やはり倍数算とか倍数変化算という名前はセンスが良くないと思います。誰が決めたんだろう?
解法の主眼は「比をそろえる作業」に置かれていますから、倍数と言われてもしっくりしません。生徒たちに聞いてみても、わかりにくい名前という意見が多いですね。
そこで僕は3つの倍数算にあだ名をつけて区別できるようにし、倍数変化算は1つなのでそのまま呼んでいますが、倍数算の出世魚が倍数変化算という教え方をしています。みなさんも4パターンを上手に区別して実戦に活かしてくださいね。では最後に4パターンを整理して2回にわたった倍数算を終わりにしたいと思います。
倍数算〈3パターン〉
・片方が変わらない ➡ 「かたっぽ固定パターン」~講座89
・差が変わらない ➡ 差をそろえる「さすらいパターン」~講座89 *二人が同じ収入、同じ出費
・和が変わらない ➡ 和をそろえる「和あわせパターン」~この講座 *二人の間でのやり取り
倍数変化算〈1パターン〉
・変わらないものがない ➡ どちらかの比をそろえる(あとの比を推奨)~この講座
では次回の講座でまたお目にかかりましょう。それでは~!
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